名古屋高等裁判所 昭和41年(行コ)2号 判決 1968年3月27日
愛知県知多郡東浦町大字石浜字芦間三一番地
控訴人(原告)
小杉仁造
右訴訟代理人弁護士
大道寺和雄
同
中西英雄
愛知県半田市堀崎町一丁目五三番地
被控訴人(被告)
半田税務署長
三間裕
右指定代理人
松沢智
同
桝谷憲治
同
猿敬敬三
同
吉実重吉
同
浜島正雄
右当事者間の昭和四一年(行コ)第二号所得税更正決定等に対する異議請求控訴事件について、当裁判所は左のとおり判決する。
主文
原判決を左のとおり変更する。
被控訴人が控訴人の昭和三七年分所得税につき昭和三九年六月一日付半田所第八二号をもってなした再更正決定中所得税の課税標準の内譲渡所得一八、五三二、九八〇円につき一六、〇三二、九八〇円を超える部分を取消す。
控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和三七年分所得税につき昭和三九年六月一日付半田所第八二号をもってなした再更正決定中所得税の課税標準の内譲渡所得一八、五三二、九八〇円につき一三、五三二、九八〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。
第一、訴訟代理人の陳述
(請求の原因)
一、被控訴人は、控訴人の昭和三七年分所得税につき、昭和三九年六月一日付半田所第八二号をもって再更正決定をし、控訴人はその通知を受けたが、右再更正決定によれば、控訴人の昭和三七年分所得税の課税標準たる所得の種類金額は別表記載のとおりと決定されている。
二、この所得の内譲渡所得一八、五三二、九八〇円の中には、控訴人が昭和三四年二月二五日訴外近藤豊よりその所有の名古屋市千種区猪高町大字猪子石字八前八八の一二六山林八反三畝一〇歩(二、五〇〇坪)を買受け、これを昭和三七年五月訴外小杉株式会社に売却した際の譲渡所得を含んでいる。そして被控訴人は、控訴人が右土地を買受けた価額は五〇〇万円であり、これを三、〇〇〇万円で小杉株式会社に売却したものと査定して右売買による控訴人の譲渡所得を二、五〇〇万円とし、これを含む控訴人の昭和三七年中の譲渡所得を前記のごとく一八、五三二、九八〇円と決定している。
三、しかしながら、控訴人は右土地を一坪当り、四、〇〇〇円代金一、〇〇〇万円で買受け、これを前記のごとく三、〇〇〇万円で売却したのであるから右売買による控訴人の譲渡所得は二、〇〇〇万円である。従って、控訴人の譲渡所得は前記再更正決定の譲渡所得額一八、五三二、九八〇円から被控訴人の前記査定譲渡所得額二、五〇〇万円と真実の譲渡所得額二、〇〇〇万円との差額五〇〇万円を差引いた一三、五三二、九八〇円である。
四、よって、被控訴人が前記再更正決定により控訴人の譲渡所得を一八、五三二、九八〇円と決定したことは、右一三、五三二、九八〇円を超える五〇〇万円については違法であり、この違法な五〇〇万円についての課税額約一、六二一、〇〇〇円も違法である。そこで控訴人は右再更正決定について、昭和三九年六月五日被控訴人に対して異議の申立をなしたが同年九月一日右申立を棄却され、次いで同年一〇月四日名古屋国税局長に対して審査請求をなしたが、昭和四〇年三月一七日棄却の裁決がなされた。よって控訴人は右再更正決定の取消を求める。
第二、被控訴代理人の陳述
請求の原因たる事実中一、二の各点、および四のうち控訴人より異議の申立、審査の請求がなされ、その主張の日にいずれも棄却された点は認めるが、その余の事実は否認する。本件土地の取得価額を一坪当り二、〇〇〇円と査定したことは、市場資料比較法によれば本件土地の取得時における一坪当りの価額は一、八三二円と算出されるところより、適正妥当であり、被控訴人の処分には何等違法の点は存しない。
第三、立証関係
控訴代理人において、甲第一号証ないし第六号証を提出し、原審証人柴田栄一、同加藤博正、同森川勇、同小川龍三(第一、二回)、同近藤豊、当審証人森光雄の各証言、鑑定人野々山清次の鑑定の結果、および、原審並びに当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二の各原本の存在と成立、乙第九号証、第一一号証ないし第一三号証の各成立を認め、ただし乙第一一号証添付の売買契約証書は不知、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、被控訴代理人において、乙第一号証、第二号証、第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、三、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証ないし第一六号証を提出し、原審証人前田保寛、原審並びに当審証人近藤豊、当審証人山下武の各証言を援用し、甲第一号証ないし第五号証の各成立は不知、甲第六号証中公署作成部分の成立を認めその余の部分の成立は不知と述べた。
理由
請求の原因たる事実中一、二の各点、および四のうち控訴人より異議の申立、審査の請求がなされ、その主張の日にいずれも棄却された点については当事者間に争いがない。
控訴人は本件山林の買入価額が一坪当り四、〇〇〇円合計一、〇〇〇万円である旨主張するのでこの点を検討する。
原本の存在並びに成立について争いのない乙第一号証、第二号証、第四号証、第五号証、原審証人小川龍三の証言により成立を認める甲第一号証ないし第五号証、原審証人柴田栄一、同加藤博正、同森川勇、同小川龍三当審証人森光雄の各証言、鑑定人野々山清治の鑑定の結果、および、原審並びに当審における控訴本人尋問の結果、並びに、弁論の全趣旨を総合すれば、訴外近藤豊の所有である名古屋市千種区猪高町大字猪子石字八前八八番の五二山林一町六反六畝二〇歩約五、〇〇〇坪の土地が一括して訴外三ツ丸不動産を通じて売りに出され、昭和三四年一月三一日これを二分し、分筆された八八番の一二六本件土地二、五〇〇坪を訴外加藤博正次いで同柴田鍗一を通じて控訴人が買受け、隣接の八八番の五二の二、五〇〇坪の土地を加藤博正外四名が買受け、右土地の一坪当りの単価はいずれも四、〇〇〇円であったこと、控訴人の買受けた本件土地の代金支払いは契約当日手付金として訴外小杉株式会社振出の金額二五〇万円の小切手で柴田鍗一を介して支払われ、次いで残金七五〇万円については同年二月二四日同じく小杉株式会社振出の金額七五〇万円の小切手が現金化されて近藤豊に支払われたこと、控訴人は同人が代表者である訴外会社より前記代金を借受けたものであること、前記売買契約に当り売主である近藤豊の要望により価額一坪当り二、〇〇〇円合計五〇〇万円なる旨の売買契約書(乙第一号証)が作成されたこと、加藤博正等買受け部分については一坪当り一、五〇〇円合計三七五万円なる旨の売買契約書(乙第二号証)が作成されたことが認められ、これに反する原審証人前田保寛、原審並びに当審証人近藤豊の各証言は前掲各証拠に照らし措信しがたく、乙第一、二号証の契約金額の記載は前記のごとく事実に反するものであり、乙第三号証の記載は本件土地の代金中訴外株式会社東海銀行則武支店を通じたもののみが記載されているもので、現金授受の場合必しも記載されるものでないし、乙第一〇号証の一、二、第一一号証ないし第一六号証による売買実例も調査機関が国税局員であるところより被調査者の全部が真実の価額を申述したものと解せられないから(被調査者としては土地の買入資金について税務署より追及されるのではないかとの考慮から土地購入価額を低く申述する傾向にあることは容易に推測のつくことである)、右各書証はいずれも前記認定の妨げにならず、他に前記認定を覆えすに足る証拠はない。
右認定の事実よりすれば、控訴人の本件土地の買入価額は一坪当り四、〇〇〇円合計一、〇〇〇万円であり、その譲渡所得は二、〇〇〇万円であったと認めるのが相当である。そうすると再更正決定による所得の種類金額中譲渡所得の金額より被控訴人の査定した二、五〇〇万円と右認定の二、〇〇〇万円との差額五〇〇万円の一〇分の五である二五〇万円を控除すべきである。従って、被控訴人が昭和三九年六月三日本件土地の買受価額を五〇〇万円と査定しこれにもとづいてなされた再更正決定中譲渡所得の金額一八、五三二、九八〇円につき一六、〇三二、九八〇円を超える部分は違法であって取消を免れない。されば控訴人の本訴請求は右取消を求める範囲において正当として認容すべく、その余の部分は失当として棄却すべきである。
よって、右と一部結論を異にする原判決を変更し、訴訟費用について民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井口源一郎 裁判官 小沢博 裁判官 三浦伊佐雄)
別紙
再更正決定による所得の種類金額
所得の種類 金額(円)
配当所得 六、一一〇、二七五
不動産所得 三三六、一二〇
給与所得 一三、〇七〇、三〇四
譲渡所得 一八、五三二、九八〇
雑所得 二、〇一七、五八二
繰越損失 △ 二一六、三四三
総所得金額 三九、八五〇、九一八